やぶから九尾

東方SS書きのブログでございます

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オリジナルSS 『二人だけの、小さな日の出』

今回は創想話に投稿していない、未発表の短編SSをお届けします。


実はお正月ネタであり、今年の初めに断片的に書いたものが元となっております。ちょっと前の某スレにて、ROMっている時に出されたネタに感動して書いたのですが、内容が内容だったので、完成させずに放置することに。ですが、ふと思い立って、昨日からこつこつと仕上げていました。


題材はもちろん東方。そしてなんと百合です。
なにぶんこういうの書いたのははじめてなんで、つたない部分もあるかと思いますが、どうかお許しくださいませ。


それでは続きからどうぞ。

 


 元旦の神社は忙しい。


 準備は大晦日から始まり、面倒な祭事のために、鏡餅やお神酒などの準備をしなくてはならない。その中でも、毎年一番厄介なのは、境内の雪を払っておかなくてはならないことだった。 実際のところ、神社の石段や参道を含めて全てを、一晩で雪かきするなんてことはできないし、やりたくない。もっともそれについては、幸い今年から、新築した神社の新たな設備のおかげで、手間が省けるようになった。紫はろーどうんたらとか言って説明していたが、仕組みには別に興味もなかった。正直、楽ちんなので嬉しい、くらいの感想しかでないし。


 そんなわけで、私は大晦日のかなり早い内に準備を終えてしまっていた。
 すでに年越し蕎麦はお腹の中。となれば瞼も重くなるはずなのだが、染み付いた習慣ゆえか、目は冴えていた。日付とともに、年が移り変わろうとしている。暗い境内では、石灯籠のわずかな火だけが光を放っている。こんな妖怪神社に、里の人間が深夜から初詣に来るはずはないし、妖怪達も正午を少し回ってから来るのが通例であった。


 とりあえず、母屋に戻ろうとした私は、ふと頭上でちかちかと光る星に気がついた。

 
 見上げて、足を止める。今は一番神社が寂しい時間帯。でも、そんな時に限って、あいつはやってくるのだ。


 星屑を巻きながら、大きな金星が落ちてくる。
 姿が大きくなるにつれて、白と黒のエプロンドレスがはっきりと見えてくる。



「……ぉぉぉおおおれ!」



 腐れ縁の箒が起こした風が、境内に残っていた雪をはね飛ばした。


「……っと。いつもと変わらず、着地成功だぜ」
「ちっとも成功に思えないんだけど」


 はねた雪を避けるため、私は一歩後ろに跳んでいた。


「よっ」
「よっ、じゃないわよ。新年早々、騒がしいやつね」
「まだ日付は変わってないぜ」


 金髪の魔法使いは、懐から何やら取り出して、うん間に合った、とうなずいている。
 その手の中にあるのは――呆れたことに――砂時計だった。


「正確には、あと半時ちょいだな」
「あそ。で、何しに来たの?」
「神社に来る用事なんて決まってるだろう」
「そうね。素敵なお賽銭箱はあっちよ」
「そうか、可愛そうに……そんなに飢えていたんだなお前」
「殴るわよ」
「そんなことしたら、賽銭を入れてやるぞ」


 わけのわからぬ、いつもの減らず口の応酬だった。
 

「っていうか、こんなところで立ち話しても寒いだけなんだけど」
「ああ、中でお茶でもごちそうになるぜ」
「誰もあんたに入れてやるなんていってないでしょ」
「私に入れてくれないともいってないぜ」
「まったく……」

 
 何が何でも、お茶を飲んでいくつもりらしい。
 彼女のせいで、人気の無かった神社が、急に間抜けな光景に見えてきた。


 でもそれが、少しだけ、ありがたかった。






◇◆◇






 私たちは、母屋の縁側に移動していた。
 夜中の突然の闖入者は、私が入れたお茶をすすりつつ、まだ薄暗い幻想郷に目を向けていた。
 ちなみに本日のお茶は番茶なのだけど、文句もいわずに飲んでいる。並んで座る私の黒髪とは違って、クセのある長髪は見事なまでに金色をしているのだが、なぜか好みは和風という、ようするに変な奴だった。


「あのさ。お前って、好きな子とか、まだいないのか?」
「は?」


 隣に座る私は、思わず聞き返した。
 何を言い出すんだこいつは。


「何それ。変態は間に合ってます」
「いや、そういうんじゃないんだ。なんっていったらいいのかな……」


 魔法使いは言葉を選んでいるようだった。


「気のせいか……お前は誰にも興味が無い気がするからな」
「まあ、そうかもね。悪い?」
「悪くは無いが、おかしい」
「おかしいのか」
「ああ、とてつもなくおかしいぜ」


 まじめな顔して、人を性格異常者のように言わないでほしい。


「興味が無いっていうよりも、みんな同じじゃないの、と思ってるだけよ」
「じゃあ、お前も同じで、妖怪と一緒ってことになるな」
「あんなやつらと一緒にしないでよ」
「お前は何をいってるんだ」


 たまにこいつは、こんな呆れたような疲れたような情けないような表情をする。
 小憎らしいことこの上なかったので、すかさず巫女チョップをかましてやる。
 甘んじて受け入れてくれるかと思ったが、しっかりと腕でガードされた。
 仕方なく手刀を引っ込めて、


「だからつまり、一緒じゃないけど、みんな等しく変な奴らばかりだと思ってるのよ。あんたを含めて」
「いや、一番変な奴はお前だと思っているんだが……」
「そんなわけないでしょ。私は人間だもの」
「あー、そうじゃなくて、私が言いたいのはな。お前にとって、誰か特別な存在はいないのか、ってことだ」
「いない」
「ああそうかい。でも知ってるか? みんなお前にとって『特別』になりたがっているんだぜ」


 お茶を軽くすする音が聞こえた。
 私は返事をせず、外の闇を見ていた。


「人間も魔法使いも吸血鬼も幽霊も妖怪も、ここに来る連中は、みんなお前にとって特別な存在になりたがっているんだ」
「何がいいたいのよ」
「いやなに、私も例外じゃないってことさ」


 彼女は、しばらく私の返事を待っているようだった。
 だけど残念ながら、その程度では、心は動かされない。
 ただ、横目で、ちらと様子を見てしまった。視界の端で、魔法使いが苦笑していた。


「なあ。これからきっと、大勢来ることになるぜ。お前に会いにな」
「当然でしょ。一番のかき入れ時なんだから、来てくれないと困るわよ」
「新年を祝うためだけじゃない。みんなお前に会いにくるってことさ……」


 そこで、彼女は立ち上がった。


「……だけど、私はおいとまさせてもらう」
「なんだ、泊まっていくのかと思った」
「もう用は済んだんだ」


 彼女はそのまま少し歩いて、境内の闇へと半身を入れる。
 私に背中を半分向けたまま、魔法使いは虚空を見上げながら、話を続けた。


「誰よりも速く、お前に会えた。誰よりも速く、お前の顔が見れた。誰よりも速く、お前と話すことができた……」


 白い息がこぼれるたびに、私の鼓動は落ち着かなくなった。
 だけど、耳をふさぐのも何だか悔しかった。
 でも、


「二人っきり、でな」


 それが聞きたかったのだろう、本当は。何せ、私は我慢をしない人間だから。
 そうなった理由は、ここは我慢をしなくても生きていける世界だからであり、その世界にあった才能を持っていたからだと思う。誰にも興味なんてないし、特別な存在なんていやしない。だから、博麗の掟なんて、気にするほどのことじゃなかった。


 ただ今だけは、それを意識した。彼女の袖を引き止めようかどうか、躊躇った。しかし、空気よりも軽いはずの私の五体は、博麗神社の縁側にしっかりと縫いとめられていた。


 やっぱりか……、と彼女は呟いた。


「じゃあ、さよなら」
「日の出は見ないの?」
「一人で見に行くぜ」


 話は終わりだ、とでも言いたげに、彼女は私に背を向けた。


 そう。私は誰にも興味はない。
 それでも私は我侭で、感情的だった。
 だから次の台詞は、ちょっとした苛立ちに似た……



「あんたと見たい、って私が言ったらどうする」



 苛立ちに似た……私の怒りが言わせた台詞だった。
 生意気で挑発的。ちっとも甘くないし、甘くはなれない。
 だけど、それが欲しがっているんだろうから、文句はないだろう。



「どうもしないさ」



それでも、彼女の返事はつれなかった。
苛立ちが増して、呼吸が浅くなる。


「見たくないの?」
「だって、その時はもう誰かが他にいるじゃないか」
「……………………」


その一言は、私のよりずぅっと甘くて、ほろ苦かった。
でもそんな弱音なんて彼女には似合わない。
そんな彼女を見たくて、言ったんじゃないんだ。


それこそ、私には似合わない上ずった声で、彼女を呼び止めた。




「じゃあ、箒の後ろに乗せてよ!」




 彼女はようやく振り向いた。
 私はその、ベールがかかった顔を見つめて、続く矢を放った。



「二人で見たいから。あんたと二人で」






◇◆◇





 彼女は私の手を握る。
 そして、昂ぶりをおさえきれぬ様子で、乱暴に引っ張る。
 箒をさっとまたぐ彼女を待たせずに、私はその背中にしがみついた。
 体が浮き上がらないように。縁側に引き止められないように。
 彼女に空へと、連れて行ってもらえるように。


 箒がたわみ、星屑を撒いて空を走り出す。
 遠ざかっていく神社が、妙に寂しげだった。
 まわした腕を、きつくしめる。
 その手を彼女は、片手で優しく撫でてくれた。


 眼下に幻想郷が姿を現す。
 この空の上で、私たちを邪魔する者はいない。
 寒風に服がはためく。ちっとも熱が冷める気がしない。
 今日で神社もおしまいだ。なぜなら巫女がいないもの。


 でも、世界が崩れていく中で、私たち二人は笑っていた。
 背中越しに心臓を寄せながら、涙を流して笑っていた。
 嬉しかったから、本当に嬉しかったから。
 彼女は私を選んでくれて、私は本当に、彼女を選んだのだから。


 東の空が明るくなっていく。
 一日が、一年が、全く別の世界が始まろうとしている。
 ついにその時がやってきた。


 そこで、私と彼女が見たのは……






◇◆◇





「……いや、やめとくぜ」


闇の中から返ってきたのは、闇より悲しい返事だった。


「新年早々、巫女が神社にいないなんてことになったら、縁起が悪いだろ」
「そうね」


 彼女はたぶん、苦笑いしているんだろう。私もそれにつられるように笑った。
 だって、その一言だけで、もう二人では飛べなくなってしまった。
 魔法の奇跡は、笑ってしまうくらい、ほんの一瞬なのだ。


「なあ知ってるか、空の上で見る初日の出は、とっても綺麗なんだぜ」
「いつもの日の出と変わらないんじゃないの」
「違うさ。きっと違う」
「本当に?」
「ああ、本当だ。でも実は、私もまだ見たことないんだ」
「きっと綺麗よ。私は知ってるもの。とっても綺麗だってこと」
「そうなのかな」
「ええ、いつか見たいわね」
「ああ、いつか見たい」


 いつか。
 それはいつだろうか。
 しわくちゃのお婆ちゃんになった私達は、今の私達の願いを聞き届けてくれるだろうか。
 ちゃんと忘れずにいてくれるだろうか。
 昔のことだと笑わずに、この一瞬を、すくいとってくれるだろうか。


「……泣くなよ」
「泣いてないわよ……あんたこそ泣くんじゃないわよ」
「泣いてないさ」


 まだ空は昏い。互いの顔などわからない。
 それは幸運だった。あるいは不幸だった。見ればもう、引き返せなくなる。
 閉じたこの世界に対して、私達はあまりに、無力だった。
 これからも、私の冷え切った洞穴には、ほんの少しの明かりしか許されない。


 でも













「じゃあな。センチメンタルパワーゲイザー」










 去り際に一言だけ、彼女は私の名前を呼んでくれた。
 私を縛り付けるその名で、魔法は本当に解けてしまった。


 魔法使いは宵闇に消えていく。
 神社には私が一人、博麗センチメンタルパワーゲイザーだけになった。



 ため息をついてから、ぐっと背伸びをした。
 さあ、これから忙しくなる。
 いつもの一日が、いつもの一年が、博麗の巫女が始まる。


 でも、私の胸には、まだあの残り火が残っている。
 絶対に消したりなんてしない。私はそれを、大事にしまっておくんだ。
 意地悪な風に吹かれないように、急な土砂降りに濡れないように、
 時がたち、いつかその火の持ち主が、心のうちを照らしつくして、私を連れ去ってくれるまで。




 霧雨メランコリックレイジングストーム。



 彼女は腐れ縁の友人で、大切で特別な存在。


 私の一年は、彼女で終わり、彼女の残り火で始まった。



(おしまい)

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このはずくは共通世界観、木葉梟は一度限りの世界観という風に、HNを使い分けて東方創想話にSSを投稿しています。
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