やぶから九尾

東方SS書きのブログでございます

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文トレⅡ参加作品 『輪唱』




 ~輪唱~









 木枯らしという言葉を、昨晩教わった。
 今朝、響子は初めてそれを肌で感じた。
 灰色の空の下、幽寂とした森を歩いていると、笛のような寂しげな音が聞こえてきたのだ。
 すぐに首をすくめなかったために、うなじから冷気が体に入り込んできて、くしゃみが出てしまった。木を枯らしてしまうのもよくわかる気がする。
 木といえば、先月はあんなに赤々と燃えていた枝も、今朝はもう乾いた葉っぱが一つか二つ寒そうに揺れているだけだ。
 紅葉であふれていた光景を思うと、歩いているだけでもの悲しくなる。
 けれど響子は目覚めてからの目標、すなわち黒ずんだ地面に残った謎の靴跡を追うのを続けた。

 見えない踊り子は、二人いた。
 彼女達が通った後は、枯れ葉が模様のような形を創り上げていて、どこか芸術的でさえあった。
 森の妖精か、それとも別の何かか。二人が踊る様を想像しながら、響子は白い息を弾ませて後に続いた。
 
 そのうち、森の奥深くまで来たところで、地面に残った靴跡が唐突に消えてしまった。
 響子は与えられた謎を解き明かそうと、しばらくその場で考え込んだ。
 すると、
 
「あ……」

 耳を湿らすひんやりとした感触に、頭が自然と持ち上がる。
 いつの間にやら、寒空いっぱいに白い点が舞っていた。

 どうりで今日はいつもと風の匂いが違ったわけだ。そういえば、桶の中に残っていた水も、薄く氷が張っていたのを思い出した。
 けれども、静かに下りてくる泡雪は、もっと強く季節の移り変わりを意識させる。秋という頁が、しんしんと閉じられていくようである。

 ふと響子は、離れた場所で、自分と同じような仕草をしている妖怪がいることに気づいた。
 彼女は空を見上げた状態で、こちらに背中を向けている。
 雪のように白い服だった。淡い紫色の髪を隠す帽子も、首に巻かれたマフラーも。自分の緑色の髪と小豆色の服とは、全然違った風貌だった。

 彼女が振り向いて会釈する。

「こんにちは……あら、初めて見る顔ね」

 響子も「こんにちは」と挨拶をして、その妖怪に自己紹介した。

「私は幽谷響子。山彦の妖怪。ここには歌を探しにやって来たの」
「歌?」
「歌と、歌っていた二人。踊っていた二人かもしれない。貴方は知ってる?」
「さぁ……でも面白そうね。訳を聞かせてちょうだい」

 響子は事情を話してあげた。
 自分は元々山に住んでいたのだが、この頃は冬が近くなると人恋しくなるので、人間の里の近くにあるお寺に滞在させてもらっている。
 そこではお手伝いをして、お経を唱え、寺の住人達と仲良く過ごすのが日課だった。
 昨晩も読経を終えて、寝所へ向かおうとしたのだが、その時に聴いたことのない何かを耳にしたのだ。
 それは林の方から流れてくる、二つの歌声だった。

 真っ赤な貴方にさようなら
 黄色の貴方にさようなら
 木枯らしがやってくる前に
 根っこを枕に そっとお眠り

 歌はすぐに小さくなって消えてしまった。
 今朝起きてから、木枯らしというのは何だろうと思い、響子は寺の住職に意味を尋ねた。
 それから、あの歌声の主達の正体が気になって……
 
「朝になって、二人分の足跡を森の入り口で見つけたから、追ってきたのよ。でも足跡は消えて……かわりに貴方が現れた」

 妖怪は微笑し、雪でいっぱいの空に向かって、赤子を抱き上げるように両手を掲げた。

 白く染めてあげましょう
 星や月の輝きをこめて 
 広く柔らかいお布団で 
 貴方を隠してあげましょう

 素敵な調べだったので、響子も無意識にその歌を繰り返していた。
 
「でも私の聞いた歌とは違うわ」
「ええ。これは私の歌だもの」

 彼女は空に両手を伸ばしたまま、何食わぬ調子で返し、また歌い続けた。
 周囲ではますます雪が降り注いでいる。森に残されていた秋が銀白の中に埋もれていくようだ。落ち葉もドングリも、何もかも。
 だが妖怪は、増していく寒気が気にならないらしく、それどころか楽しげですらあった。
 何か言いようのない寂しさを感じ、響子はその場を早々に立ち去ろうと思った。

「はい、できた」

 動きかけた足が止まる。
 白い妖怪の手の中に―― 一体どうやって作ったのだろう――小さな雪だるまができていた。

「冬はお嫌い?」

 彼女が差し出したそれを受け取り、響子はうつむいて首を振った。

「……雪は好き」

 話しかけられたら無視できないのが山彦なのである。




 寒くて苦手だった季節が、新しい友達を連れてきてくれた。
 静まりかえった森の中、冷たく柔らかい道を行けば、雪花の中で彼女が歌って待っている。
 お寺のこたつで皆とぬくぬく過ごす時間も好きだったが、静寂とした銀世界で秘密の友達が迎えてくれるのも、味わい深いものがあった。
 森の方角から歌が聞こえてきたら、自分も歌を返す。それが二人で会うときの決まり事だった。

 ある晩、大きな雪だるま――最初にもらった時は小さかったのだけど――に背をもたれていた響子は、彼女に尋ねられた。

「そういえば、貴方はもうあの歌の主を探すつもりはないの?」
「あの歌って、どの歌?」
「木枯らしの歌」
「ああ」

 響子は思い出して歌ってみたものの、今の白く澄んだ空気にはそぐわない気がした。

「貴方から教わった雪の歌の方が好き。あの時の歌も嫌いじゃないけどね」
「そう……」

 妖怪はどことなく嬉しそうだった。

「それじゃあ、次の歌も好きになるといいわね」
「次の歌? それはどんな歌?」

 彼女は笑うだけで、何も言わずにいる。
 ただ、視線は響子ではなく、どこか遠くの方に。夜空で凍った満月よりも、ずっと遠くに向けられているように見えた。

 会話が止まってしまい、響子は少し寂しい気持ちになる。
 山彦は話しかけてもらえないと、会話にならないから。




 すっかり暖かくなった森の中を、響子は急いで駆けていた。
 雪はもうほとんど消え、小鳥が賑やかに鳴いている。
 しかし、走る響子はとてもじゃないが、長閑な気分ではいられなかった。
 ここ数日、森から歌がぱったりと聞こえてこなくなったのだ。
 なぜもっとその意味に早く気がつかなかったのだろう。

 ぬかるんだ泥の上に足跡を発見し、さらに焦りが募った。
 とても小さい靴の形で、一つ一つから黄緑色の芽が出ている。
 彼女のものではない。響子は先を急いだ。

 やがて森の奥で、光る風と共に舞う姿が見つかった。
 とんがり帽子をかぶった妖精が、歌を口ずさんでいる。

 すみれの香り うらうらら
 小川のせせらぎ ほうほけきょ
 ふきのとうから つくしまで
 この歌届け 春ですよ

 響子は山彦だったが、その歌を繰り返すことができなかった。
 妖精の傍らに、あの雪だるまの残骸を見つけてしまったから。

「春ですよー?」

 妖精が話しかけてくるものの、響子は首を振る。
 私が聞きたいのは、私が歌いたいのはその歌じゃない。
 知っていた。雪と共にやってきた彼女が、雪と共に帰ってしまうことは、心のどこかで覚悟していた。
 けど別れるにしても、ちゃんと挨拶を告げたかった。
 何も伝えられないまま、行ってしまうなんてあんまりだ。

 膝をついて歎く自分の袖を、妖精が引っ張った。
 彼女は微笑んで、雪だるまの跡を指している。

 見た瞬間、響子は思わず涙を引っ込ませた。
 そこに、小石や土を使って、文字が残されていることに気づいたのだ。



 つぎのふゆに あのうたのつづき おしえてあげる



 瞼をこすって、響子は立ち上がり、先に行った妖精の後を笑って追いかけた。
 


 秋は神様、冬は妖怪、春は妖精。夏もやっぱり誰かの歌を聴き、後に続くことになるのだろう。

 彼女達は四季の歌い手。

 なら山彦の自分はきっと、四季と旅する影法師。



 




~~~~~








 お久しぶりです。PNSです。
 一体なんだこのSSは、長編はどーした、っていうツッコミが入りそうですね。
 失礼いたしました。ご説明します。

 実は私、某所のチャットで行われた企画、文トレⅡに参加しまして。
 これはお題をもとに、最大三千字の作品を〆切までに仕上げ、一週間という期限内に投稿して、それぞれの作品を論評しあうという勉強会です。今回のお題は『雪』と『歌』でした。二つっていうのは、なにげに鬼畜です。三つだったら無理ゲーでした、はいw

 今回は若干修正を施したものをブログに掲載してみました。
 普段の自分とはちょっと違う(?)作風にチャレンジしてみたんですが、こんなに短いのを書いたのは本当に久しぶりでしたね。あれか、『八雲家の怪獣』以来か。驚かせて申し訳ありませんでした。次回の更新では、また新しい企画をやるんじゃないかと思います。ではではー
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Comment

ひゃあ、新作だー!
詩的表現、とても素敵です。

根っこを枕に、雪の布団で。
レティさんが機転を利かせたのか、元々繋がっている歌なのか。
春の歌で目覚めになれば、繋がっているのかな。

いい作品をありがとうございました。
長編も頑張ってくださいなー
  • posted by
  • URL
  • 2011.11/12 17:56分
  • [Edit]

>No97さん
 ひゃはー! 新作だぜー!
 お読みいただきありがとうございましたw
 詩的表現は、なかなか難しいので勉強中でございますが、この四季の歌は割と気に入っています。
 おそらく幻想郷で、昔から歌い継がれてきたものなんじゃないでしょうか(夏はどうした)

 長編その他も頑張って制作中でございます。
 何が先になるかさっぱりわかりませんが、これからも作品を書いていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 どうか今しばらくお待ちを!
  • posted by PNS
  • URL
  • 2011.11/14 00:25分
  • [Edit]

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このはずくは共通世界観、木葉梟は一度限りの世界観という風に、HNを使い分けて東方創想話にSSを投稿しています。
ここでは他の方々のSSや、自作SSの裏話などを紹介しております。あとは、軽い後日談とか。よろしくです。

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