やぶから九尾

東方SS書きのブログでございます

Entries

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

作品集59 『大きくしたいの!』 後日談

タイトルの通り、以下は過去に東方創想話に投稿した、『大きくしたいの!』のおまけです。
まだ拙作をお読みでなく、なおかつ興味を抱いたという方は、リンクのCoolierさんのところからお飛びください。それと、あの作品のまま、心の中で完結させておきたいという方は、読まないことをオススメします(ぺこり)
それではどうぞ。


 満月の夜。
 里のはずれにある一軒家に、明かりがついていた。
 家の障子には、蝋燭で抜き取られた、人影が映っている。その頭からは、二つの角が生えていた。


「…………ふむ。今日はこんなところか」


 上白沢慧音は満足して、すずりの端に筆を寝かせた。
 彼女は歴史を食べ、創り出す獣人、ワーハクタクである。
 机の上に開かれた分厚い帳面には、彼女が今夜紡いだ『歴史』が記されている。
 幻想郷の歴史を編纂するのが、彼女の仕事であり、生きがいの一つであった。それはこうした満月の晩、すなわち、ハクタクの姿へと変わる夜に行われている。
 いつもは、たまりたまった一月分の歴史を書き記すために、徹夜作業となるのだが、今宵は思いのほかはかどった。


「それほど大きな事件もなかったからかな。まあ、平和でなにより」


 人間でもあり、妖怪でもある自分。
 二人の慧音はともに里の、ひいては幻想郷の平和を願っている。
 大きな事件だけが歴史ではない。人生の刺激は、日常のわずかな変化だけで十分足りるのだ。それを記すことにも意義があり、そして記す当人にとっても喜びでもあった。


 里の守護者は微笑して、もう一度だけ、記した歴史張に軽く目を通してから、それを丁寧に閉じた。
 目が冴えてしまっている。満月の日は、気分が高揚しているために、なかなか寝付くことができない。
 こんな夜は、月見がてら散歩にでるのがよいだろう。幸い空に雲はない。


 慧音は机の上を片付け、蝋燭の火を吹き消した。
 お気に入りのリボンを忘れずに。
 戸締りをして、外に出ようとしたところ、




ズズーン……




 遠くで、山崩れのような音がした。


 はっとして、慧音は外に飛び出した。
 里は寝静まっており、異常は見受けられない。


「何事だ?」


 聞こえてきた方向を確かめながら、慧音は独りごちた。
 方角からすると、霧の湖から聞こえてきたようだ。となると、音の発生源は紅魔館である可能性が高い。泥棒稼業を営む魔法使いが、夜に押し入ったのだろうか。だとすれば、相変わらず呆れた所業、というほかないが。


 いやしかし……


 慧音は腕をさすった。


 この気配は何だ。この肌をひりつかせる緊迫感は。




 オオオオ…………




 次に聞こえてきたのは、破壊音ではなかった。
 洞窟を流れるすきま風を思わせる、哀しい音色だった。
 だがそれは、確かに人の声だった。


 嫌な予感に引き寄せられるようにして、慧音は飛んだ。
 里の上空に浮き、はるか遠くに目をこらす。
 やはり、紅魔館から煙が上がっていた……だが、それだけではなかった。


 その上に立つ、巨大な姿があったのだ。


「な、なんだと!?」


 信じ難い光景に、慧音は狼狽した。


 それは女神だった。
 山にもその身を隠せぬほどの、途方も無く大きい女性。
 生まれたままの姿で、銀髪の滝を背中に流し、小さく見える洋館に長大な脚を挿している。
 その女神は、月の光を浴びながら、天に向かって咆哮していた。


「まさかあれは……彼女なのか!?」


 自分の記憶を疑いたくなったが、それでもあれは、知人に思えた。
 見慣れたメイド服ではなく、体格も比べ物にならなかったが、十六夜咲夜だった。
 慧音は戦慄した。
 尋常な事態ではない。何故こんなことが起こった。なぜ彼女が、あのような変化を遂げたのだ。


 大粒の涙に濡れたその瞳が、遠く離れたこちらを向いた。


「くっ…………!?」


慧音はその視線を受け止め、彼女の歴史へとダイブした。




◆◇◆




 ズズーン……


「相変わらず騒がしい来訪ね」


 十六夜咲夜は、廊下の掃除をする手を止めた。
 館を揺らす震動が、来客を告げるベルとなる。
 今ごろ門は、瓦礫と門番の屍で、見るも無残な状態となっているはずだ。
 そんな真似をしでかすのは、彼女のよく知る魔法使い、霧雨魔理沙しかいなかった。


 咲夜は仕方なく、紅茶を用意しにかかった。
 本来ならば、館内の警備役という役割からして、あの魔法使いを追い出すべきなのだろう。
 しかし件の魔法使いは、時に忍び込み、時に堂々と、時に力押しで、と様々な手法でやってくる。それがゆえに、咲夜の主が面白がって、ある程度蛮行を許しているのであった。
 ご主人様の興をそぐことはしない。まあそんな従者としての単純な動機から、余程のことが無い限り、咲夜は魔理沙を客として扱っていた。ただし、普通の人間扱いはしていないが。


 さて、紅魔館における魔理沙の目当ては、常に魔道書である。
 館の地下にある大図書館は、七曜の魔女、パチュリー・ノーレッジが管理しており、館に侵入した魔法使いは、真っ先にそこへと向かう。
 というわけで、咲夜はいつものように、カップにポット、お茶菓子一式を乗せた台車を、地下の図書館へと運んだ。
 大きな扉の前に立ち、コホンと咳を一つ。時を止めて室内に一瞬で現れることもできるが、ノックは最低限のマナーであった。


「失礼しま……」


 と軽く扉を叩こうとした時、中から声がした。




「……んで効果は一体なんなんだ?」
「まあ一言で言えば、『胸を大きくする薬』よ」




 咲夜は反射的に、時を止めた。
 扉を開け放ち、魔女の座る読書机へと走り向かう。


 場の空間は、変化を止めている。
 パチュリーは魔理沙の方を見ながら、口を小さく開けていた。
 その魔理沙は片手にビンを持ったまま、ぴくりとも動かない。
 咲夜は二人の側に立ち、そのビンの中身を、食い入るように見つめた。


 色付けされた小さな球体が詰まっている。
 キャンディーにしか見えないが、これが『胸を大きくする薬』だというのか。
 咲夜はそれに手を伸ばしかけて、思いとどまった。
 部屋の中を確認する。すぐに、パチュリーの後ろに、同じビンがいくつか並んだ棚があるのに気がついた。


 一番奥にあったビンの一つを、咲夜は取り出した。台車へと戻り、下の段にビンを置く。
 忘れずに、当初の目的だったお茶の用意をする。パチュリーの冷めた紅茶も注ぎ変えた。


 普段冷静なはずの自分が、心臓を大きく鳴らしていた。
 浮き足立つのを何とか抑えながら、咲夜は図書館の外に出て、時の流れを元通りにする。
 そして、何食わぬ顔をして、自室へと向かった。




◆◇◆




 「『胸を大きくする薬』……か」


 自室に戻った咲夜は、ビンの中身を再度確認してから、それを机に静かに置いた。
 頭のホワイトブリムを外して、いつもと同じメイド服を見下ろす。
 目に映るのは、靴の先を覆い隠す、二つの丘。だがそれが、偽りのものであることを、彼女は誰よりも知っている。


 ベッドに腰掛けながら、咲夜は腕を組んで、机の上のビンを見つめた。
 完全で瀟洒な存在。そう呼ばれることは、悪い気はしないし、そうありたいと思っている。
 しかし、それにはまだ足りないものがあった。
 彼女の少ない悩みの一つ。それを強く求めてしまうのも、それが足りていないからこそかもしれないが。


「色々試してはみたんだけど……」


 咲夜は小さくため息をついた。


 紅魔館のメイド長は、瀟洒で完全であるべきである。


 すなわち、


 紅魔館のメイド長は、腹を下してはならない。
 紅魔館のメイド長は、ふしだらになってはいけない。
 紅魔館のメイド長は、必要以上の筋肉をつけてはならない。
 紅魔館のメイド長は、主の食べ物を奪ってはならない。


だが、


 十六夜咲夜は、牛乳を飲み続けている。
 十六夜咲夜は、お風呂で常に自分の胸をマッサージしている。
 十六夜咲夜は、寝る前にいつも腕立て伏せをしていた時があった。
 十六夜咲夜は、一日三食納豆をおかずにして、主の分まで食べてしまった過去があった。


 それでもまだ、夢は適わない。
 思い悩むのが辛くて、一度誰かに相談しようか、と考えたこともある。
 例えば知識人のパチュリーに、あるいは巨乳の美鈴に。


 だが、秘密を話すのが怖かった。
 そして、主人であるレミリアには絶対に話せない。誰であろうと我儘に振舞う幼き夜の王は、しかし自分には存外に優しかった。
 だからこそ話せないのだ。彼女は運命をみることができる。従者の運命の先にあり、そこで待つ未来を覗かれてみたまえ。その可愛らしい顔が、わずかでも同情を含んだ悲しげなものになれば、咲夜は衝撃のあまりメイド服を放り出して、放浪の旅へと向かうこととなるであろう。


 そう。全ては胸が小さいから。
 これが大きければ、何も問題は無かったはずなのに。


 咲夜はビンの蓋を開け、中の薬を一粒取り出した。
 小さな飴玉のように見えたそれは、指で撫でると、さらりと崩れた。
 粉を固めて作られているようだ。


「薬に頼るなんて……馬鹿げた考えだと思っていたけど……」


 コップに水を注ぐ。
 手のひらいっぱいに盛った薬を、そっと握る。


「それでも私は……」


 いつまでも虚乳じゃいられない。
 巨乳となって、心穏やかな毎日を過ごす。
 それがメイド長としての、十六夜咲夜としての道。


「……大きくしたいの!」


 咲夜はいっきに薬粒の山を口に運び、頬をふくらませて咀嚼した。


 苦くはなかった。
 むしろ甘酸っぱい味が口の中に広がる。
 それはまさに、乙女心を満たしてくれる、魔法の薬だった。


 すかさず水で流しこむ。むせずに全てを服用し、大きな息をつく。
 変化はすぐに現れだした。
 胃の奥で発火したような熱が起こり、それが胸へと伝わっていく。
 そして、むくむくとそれが膨らもうとしているのが感じられた。
 夢にまで見た自分の姿へと、近付いていくのが分かる。


「やった……! ついに私は……」


 しかし、喜んだのもつかの間、事態は悪夢へと向かった。
 胸だけではなく、全身が波打つような感覚に襲われる。
 部屋の光景が歪んでいく。平衡感覚を失い、咲夜は床にしゃがみこんだ。


 みるみるうちに、家具が小さくなっていく。
 いや、自分の体が大きくなっているのだ。
 メイド服が裂け、天井に背中が押し付けられる。


――どうして!?


 そう叫ぶ前に、急激な変化が、咲夜を襲った。




◆◇◆




「……なんということだ」


 咲夜の歴史を読んだ慧音は、しばし呆然としていた。


 胸の内に起こるのは、哀れみと自責の念だった。
 彼女がそんなに悩んでいたとは知らなかった。
 たかが胸じゃないか、というのは、足りている自分であるからこそ言えるのだ。
 持たざる者の乙女心は理解できない。だからこそ、やるせない気持ちになった。
 この事態に、慧音は直接的な責任は存在しなかったが、だからといって見てみぬふりなどできない。
 もっと早く自分が気がついていれば、彼女の相談に乗るなりして、この事態を防げたのかもしれないのだ。


 そうこうする内に、里も異常事態に気がついて、騒がしくなってきた。
 この分だと、幻想郷中に騒ぎが広まるのも、時間の問題であろう。


「いかん! このままだと羞恥のあまり、彼女はこの地で生きていけなくなる!」


 速やかに事態を収拾する必要があった。
 しかし、あれほど巨大化した存在を元に戻す方法など、物知りの慧音にも見当がつかない。異変の解決者たる博麗の巫女にとっても専門外だろう。鍵となるのは薬を作ったパチュリーか。
 だが、すでに第三者に知られてしまっているのでは、意味はないのだ。咲夜の心には、消えない傷がつけられ、それは周囲の憐れみによって、より深くなる。
 皆の記憶を消す必要があった。
 それができる存在を、慧音は知っている。


「…………私は人間が好きだからな」


 目を閉じて、自分に言い聞かせるように呟いた。そうすることで、勇気を奮い立たせる。
 満月の晩、最後の仕事納めだ。
 失敗すれば何もかも終わり、そして、成功したとしても、自分がどうなるか分からない。


 だが彼女を、そしてこの幻想郷の平和を守りたい。


 慧音は意を決して、両の眼を開いた。
 緑がかった髪が、金色に輝いていく。やがてそれは全身へ流れ込み、次第に大きくなっていく。
 光は慧音の体を中心にして、急速に広がり、ついに嘆く咲夜の元へとたどり着ついた。
 やがて幻想郷は、慧音の力によって包まれていた。


「安心しろ。私がお前を救ってやる。そして……」


 月の恵みを身に受けて、全能力を解放し、


「今夜の歴史を、無かったことにしてやる!」


 慧音はその悲劇を喰らった。




◆◇◆




 次の日の昼下がり、幻想郷は平和だった。


「おーい、慧音ー。留守ー?」


 藤原妹紅は、外から友人の家に声をかけていた。
 しかし、返事が無いので、再度玄関の戸を叩くことにする。


「慧音ってばー」
「………………」
「ん?」


 それは、うめき声に聞こえた。
 どうやら中の友人は、何かに苦しんでいるようだった。


「…………便秘かね」


 不思議に思って、妹紅は扉に手をかけた。鍵はかかっていなかった。
 慧音の家の玄関は、真ん中に囲炉裏のある居間へと繋がっている。その居間には、家の持ち主の姿は見当たらなかった。
 よく聞いてみると、うめき声がするのは、便所ではなく、奥の寝室だった。
 妹紅はそちらへと向かった。


「慧音ー、ってうわ」


 布団のお化けがいた。
 正確には、床の青い布団の下で、誰かが丸まっていた。
 側には、洗面器やら、手拭いやらが置かれている。
 布団の端からは、水色の髪がのぞいていた。


「慧音?」
「……もこーか」


 声だけは、友人の慧音に間違いなかった。
 しかし、明らかに様子がおかしかった。
 いつもの慧音なら、布団から出ずに、というか顔も出さずに客を迎えるという無礼など、絶対に行わない。
 口調にしても、日頃の凛としたものが失われていた。


「ひょっとして……具合が悪いの?」
「…………うむ」
「って、大丈夫なの!?」


 布団は無言だった。
 妹紅の顔から血の気が引いた。


「もっと早くに来るんだった! こうしちゃいられない! 今すぐに永琳の所に行こう!」
「…………いい」
「よくないよ! 布団から出るのが辛いなら、私がおぶってあげるから。あ、それともあいつを呼んできた方が……」
「…………いいんだ」


 そこで、布団がもぞもぞと動いて、端から慧音の顔が現れた。
 げっそりしていて、目に力が無い。重病のカタツムリのようだった。


「じつは……しょくあたりなんだ」
「しょ、食あたり? あんたが?」
「ふかくだった。あんせーにしていればなおる」
「……………………」
「だから、もこーはきにしないでくれ。わたしはだいじょうぶ」
「ちっとも大丈夫に聞こえないわよ」
「そうか」


 そこで、慧音の顔が、再び布団の中へと消えていった。


「ちょっと、慧音」
「すまん。いまはもてなすことができない。もこーにはわるいが、きょうのところはかえってくれ」


 か細い声は、まるで仔猫の読経である。
 これは相当弱っているようだ。
 妹紅はその丸まった布団の上を、優しく撫でてやった。
 くるしーよー、とかいう小さな声に、思わず、ため息が出た。


「慧音、水臭いよ」
「……………………」
「そんないつもの理屈っぽくて頑固な態度がさっぱり無くなったような状態で、はいそーですか、と放っておけるわけないでしょ」
「…………りくつっぽくなんてないぞ」
「病人は黙ってなさい」
「……………………」
「私、しばらくこっちに泊まるわ。あんたの面倒みに」
「………………なに!?」


 再び、にゅっと、慧音の顔が布団から出た。


「いやそれは」
「どうせその様子じゃ、身の回りのことだって出来やしないだろうに。あんまし人の世話ばっかやいてないで、たまには好意に甘えたら?」
「し、しかし……」
「あー、もう理屈なんていい! 黙ってなよ!」


 妹紅は布団を引っ張って、慧音の顔にかぶせた。


「…………いつもこっちが世話になってるばかりじゃ、しょうがないからね」


 押さえ込んだまま、妹紅は頬を染めつつ呟いた。
 布団の下で、友人はじっとしていた。

 だがやがて、弱々しい声で


「せわになる」
「よし。それでいいのよ。じゃ、服の替えはどこ? 着替えしてないでしょ」
「…………みぎのたんすに」
「了解」
「もこう」


 布団の奥からの呼び声に、妹紅は振り向いた。


「ありがとう」
「どういたしまして。それよりさ、食あたりって嘘でしょ。本当は何なの」
「……うそじゃないぞ。しょくあたりだ」
「半分妖怪のあんたが、食あたりでそんなに苦しむわけはない。さっさと白状しなよ」
「しょくあたりだ。それと……」
「それと?」


 妹紅は続きを期待する。
 だが、返ってきたのは、そっけない一言だった。


「……たんなるおせっかいだ」
「……慧音らしいね、そりゃあ」


 妹紅はくすりと笑って、着替えを用意しにかかった。


 今夜のご飯は何にしようか、と思いをめぐらせながら。


スポンサーサイト

Comment

Comment_form

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

左サイドMenu

プロフィール

 

Author: 
 
このはずくは共通世界観、木葉梟は一度限りの世界観という風に、HNを使い分けて東方創想話にSSを投稿しています。
ここでは他の方々のSSや、自作SSの裏話などを紹介しております。あとは、軽い後日談とか。よろしくです。

最新記事

今日は何の日?教えて慧音先生

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。